俳優の仕事は、どんな役を与えられても、その役になりきって演じることです。
しかし、どんなに上手く演じようとしても、どんなに声を張り上げて大きな動作で表現しても観客がしらけてしまう場合があります。
それはその演技が不自然で、リアルではない、いわゆる「クサイ芝居」になってしまっているからです。プロの俳優にとって役になりきって演じるということは、いかに自然な演技ができるかということです。

では、自然な演技とはどういったことを言うのでしょうか。

台本に書かれていることが全てではない

俳優は台本を与えられるとまずは一通り読んでみることから始めます。

台本には基本的に台詞と、その時の状況や役の心理などの「ト書き」が書かれてあります。

でもその台本だけを読み込み、ト書きに書かれている通りに感情を込めたり動いたりするだけではリアルで自然な演技をすることはできません。

よりリアルで自然な演技をしようと思うなら、与えられた役の生い立ち、今までに起こった出来事など、この台本には書かれていないことを想像してみるのです。

物語が始まっても、この役の出番意外にはどういう生活をしているのかなども想像してみてください。

その上で、役の性格を理解し自分がこの役だったらどんな気持ちでどんな言い方をするだろうと考えるのです。

台本に書かれている通りに演技をしなければならないという型は取り払って、自分だったらと本気で置き換えるのです。

するとよりリアルで自然な演技に近づくことができます。

役を正当化すること

もしも演じなければならない役が、自分でいくら想像してもこんな台詞は言わない、こんな行動はしないといった役だったらどうしますか?

プロの俳優は、もし現実に自分にはとても当てはまらない役だったとしても自然に演じられるようにしなければなりません。

まず先ほど述べたように台本には書かれていないところまで役を想像し、自分に置き換えます。

すると台本に書かれている役と自分とのギャップが見えてきます。

そこから自分に置き換えた役と、台本に書かれている役をどうやって近づけていくかが大切です。

例えば嫌われている役の演技をするとき、自分は絶対にやりたくない役だと思います。

しかし、嫌われるような行動を取ったり言ったりすることが、何か理由があるからだと正当化してみます。

本当に嫌われている役ではなく、誰かのためにわざと嫌われるようにしたとしたら演じやすくなりませんか?

嫌われ役が見る見るうちにいい人へと感じるように想像すると、自分だったら言わないような台詞も言うかもしれないなと気持ちに変化が生まれるかもしれません。

背景を想像する

例えばテレビドラマだったり、映画の撮影ならば、撮影場所によって背景を感じることができます。

しかし、俳優の仕事はそれだけではなく、舞台だったり声優だったり様々な場面で同じように演じなければなりません。

そういったときに背景を想像するということは、自然な演技をするためにとても大切なことです。

今、自分が演じている場所を想像するだけではありません。

天気、気温、光、風、周りの音、時間帯によってはお腹が減っていたり、疲れているときかもしれない。

そういったことを全て想像してみてください。

何も想像しないまま演技をするのと背景を想像しながら演技をするのでは台詞1つにしても大きく変わってきます。

もしも舞台背景の場所が特定されているのなら、実際にその場所へ行ってリサーチしてくるのもいいかもしれませんね。

特別な場所ではなく実生活に集中すること

あなたが演技をしている場所はどこですか?
たくさんの観客がいる舞台の上、たくさんのスタッフと数台のカメラが回っているドラマや映画の現場、演技をする場所は様々です。

そんな演技をする場所で、「失敗したらどうしよう」「自分の演技はどう見られているだろう」などいろんな考えが浮かんだりしませんか?

そんな不安は緊張となり、ストレスとなり、自然な演技の邪魔をします。

だって、演じている役はそういった緊張やストレスはまったく感じない別の人格なのですから。

演技をしている場所はその役が生きている場所です。

あなたが演技をしている場所ではありません。

一緒に演技をしている俳優は俳優ではなく、演技をしている役の友達であったり家族であったり、その物語の登場人物なのです。
演技をしている間は物語の世界観、その役の実生活に集中しましょう。

自分らしく素直に演じること

先ほどの「実生活に集中すること」にも繋がりますが、どうしてもお客様が見ていると思うと格好よく見せたいとか、他の俳優よりも上手く見せたいなどと言った邪念が生まれます。

その邪念は過剰に演じてしまったり、余計なことを付け足してしまったりと、「クサイ芝居」の原因になります。

台本にはない役の全てを想像し、背景を思い浮かべ、自分と役とのギャップを理解した上で役を正当化したら、自分の感じるままに感情表現をしましょう。

泣かなければいけないシーンが近づいてきたとき、「泣くぞ!」と構えるのではなく、感じるままに素直に演じれば自然に涙はこぼれるでしょう。

リアルで自然な演技は、過剰な演技をすることは捨て、自分らしく素直に演じることなのです。